放射性物質と放射能と放射線の違い

2011年3月11日に福島第一原発事故が起る前は、多くの日本人において、原子力事故の深刻さを実感することはありませんでした。しかしながら、福島第一原発事故を契機に「放射能汚染」が現実となり、放射能に対する不安が高まりました。その一方で、放射能関連の説明の際に「放射性物質」「放射能」「放射線」といった言葉が頻繁に使われますが、その違いについてよく理解していなかったり、勘違いしている人は結構多いのではないでしょうか?

一般に国語辞書では、放射能汚染を「核爆発や核実験、原子力施設などから放出される放射性物質によって、環境や生体・器物が不必要な放射線を受け、汚されること」などと記していますが、この説明は結構曖昧で分かりずらいと言えます。ここでは、放射性物質と放射能と放射線の違いについて、簡単にご説明したいと思います。

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放射性物質・放射能・放射線を例えると・・・

放射性物質・放射能・放射線を明確に区別して理解する上で、様々な例え方がありますが、個人的に一番しっくりといったのが「光を放つホタル」でした。まずは、この三つの違いについてよく理解しないと、万一の時、注意しなければならない対象を間違うことになります。

<放射能関連を虫かごに入ったホタルに例えると>

・ホタル → 放射性物質
・ホタルの発光能力 → 放射能
・ホタルの光 → 放射線
・ホタルが虫かごから逃げ出すこと → 放射能漏れ
・ホタルの光が虫かごから漏れること → 放射線漏れ

放射性物質とは何か?

放射性物質は、放射線を出す放射能を持った物質の総称をいいます。これには、ウランプルトニウム、トリウムのような核燃料物質、放射性元素(放射能を持つ元素)もしくは放射性同位体(放射能を持つ同位体:ヨウ素131ストロンチウム90セシウム137 他)、中性子を吸収または核反応を起こして生成された放射化物質などがあります。

簡単に「放射性物質」を例えるなら「光を放つホタル」であり、これが原子力事故などで放出されることが一番の問題と言えます。万一の時、私たちが注意しなければならないものは、放射性物質と放射線であって、放射性物質は「放射線を出す発生源」と理解しておきましょう。

放射能とは何か?

放射能は、放射線を出す能力(性質)をいいます。現在、その強さについては、放射性物質が1秒間に壊れていく数で表し、1秒間に1個の原子核が崩壊する放射能の強さを「1ベクレル(Bq)」と定義しています。

一般に不安定な原子核は、安定した状態になるために放射線を放出し、性質の異なる別の原子核になっていき、これを「原子核崩壊」と言います。また、放射能には、時間の経過と共に原子核崩壊が減っていくという特徴があり、放射能(放射性物質が放射線を出す能力)が元の半分になるまでの時間を「半減期」と言います。

簡単に「放射能」を例えるなら「ホタルの発光能力」であり、実際のところ、非常に抽象的な概念です。万一の時、私たちが注意しなければならないものは、放射性物質と放射線であって、放射能は「放射線を出す能力」であることを理解しておきましょう。ちなみに、放射能が怖いというのは、放射線を出す力が怖いという意味になり、実は恐れている対象がズレていることになります。

放射線とは何か?

放射線は、一般的には、物質を通過する時に原子や分子をイオン化させる能力がある「電離放射線」のことをいいます。これには、アルファ線ベータ線ガンマ線エックス線中性子線などいくつかの種類があり、その違いとしては、物質を突き抜ける力(=透過力)の強さや、物質と反応する能力の強さなどが挙げられます。

簡単に「放射線」を例えるなら「ホタルの光」であり、原子力事故などで人体に直接的な影響(健康被害)をもたらすものです。また、被曝するとは、人体が放射線にさらされることを指します。万一の時、私たちが注意しなければならないものは、放射性物質と放射線であって、「放射線が人体に有害なもの」であることを理解しておきましょう。